水曜日, 12月 13, 2017

保守論客に依る独裁者の冷静な分析-悪の独裁者論

著者の山内氏、佐藤氏共に保守の論客ですが、現在厄介な独裁者とされる指導者について、宗教、思想、パラダイム原理に基づいて、その行動形態を冷静に分析していて、一読の価値がありそうです。

特に、佐藤氏は神学研究科卒業ですから、宗教基盤について論じるのですが、普通の論客には見られない観点からの分析は、正鵠を得ている様な気がします。

取り上げられ分析される5人の指導者は、米国のトランプ氏、北朝鮮の金正恩、ロシアのプーチン氏、トルコのエルドアン氏、イランのハメネイ氏ですが、否定的見解は見られず、現在悪の権化とされ国際社会から強い制裁を受けている北朝鮮の金正恩についても、客観的にその行動基盤を分析するのです。

米国のトランプ氏については、近頃批判の的とされているエルサレム首都問題では、プロテスタント長老派の彼として当然の帰結で、アラブ諸国の支援を受けて、イランとの対決姿勢を強めるだろうと、事前に分析しているのです。

とりわけ、ロシアのプーチン氏については絶賛、教養や知識の広がりや深さは、他の指導者とは較べるべくも無いとするのです。 ロシアには、悲劇的や様々なマイナスの歴史はあるが、それらも含めてロシアであり、それぞれの時代の中で解決すべき点は解決して行こうとする姿勢は妥当と評価するのです。

韓国の様に、日本に依る朝鮮戦略の史実を無限遡及的に、「悪無限」として、現代日本を常に批判するのは、生産的でないと処断分析しています。

しかし、悪の指導者の代表格とされる中国の習近平氏は本書に含まれないのは不思議に思われますが、最終章で記載されている「少し時間を置きたい」と言うのです。 何故ならば、習近平氏は中華覇権主義を奉じ、2016年10月には別格の指導者「核心」に位置づけられ、益々その体制が強化されて行きますが、現状は比較的に安定していて変化は無く、任期10年を延長する様な事態を見守りたいのと趣旨の様でした。

金曜日, 9月 29, 2017

玄冬の老齢時期に孤独を楽しむ-五木寛之「孤独のすすめ」

近頃は、社会保障制度予算の急拡大と共に、「搾取する」老人階級vs「搾り取られる」若者階級・勤労者階級という構図が問題となって来ました。
世代間の闘争とも見える切実な課題ですが、人間不信と自己嫌悪を克服することで、それを打開出来るのではないかと言うのが著者の主張です。

老人階級の生き方としては、「孤独を楽しむ」ことを、次の様に推奨します。
人生は、青春、朱夏、白秋、玄冬と、4つの季節が巡って行くのが自然の摂理です。玄冬なのに青春の様な生き方をしろと言っても、それは無理です。 老いにさし掛かるにつれ、体も思うように動かず、外出もままならず、訪ねて来る人もおらず、何もすることが無く無聊を託つ日々、世の中から取り残されてしまった様で、寂しいし不安だ。 孤独な生活の友となるのが、例えば読書で、外出が出来なくなっても、誰にも邪魔されず、古今東西の人と対話が出来る。視力が衰えて、本を読む力が失われても、回想する力は残っている。残された記憶を元に空想の翼を羽ばたかせたら、無辺の世界が広がって行く。 歳を重ねるごとに、孤独に強くなり、孤独の素晴らしさを知る。孤独を楽しむのは、人生後半の充実した生き方の一つだと思うのです。

現状、日本が抱える難問を逃避する傾向にあると懸念し、思考停止を警告しています。
日本人の様に、知識水準の高い国民がどうやって難問に立ち向かうのか、世界中の人々が固唾を飲んで見守っている問題があります。 一つは、使用済み核燃料の処理で、他の一つが、超高齢社会の行方で、どちらも戦後の日本で素晴らしい成果を上げながら、時間の経過と共に、その存在が社会の重荷になっている。 しかし、それらから目をそらし、とりあえず棚上げにして、「充実した毎日」を過ごせれば良いと現実から逃避し、美味なパンを求め、日々サーカスに興じることになります。

老人階級としての生き方を、日本のあるべき姿を模索しつつ、次の様に提唱するのです。
超高齢社会を生き抜くには、どうも「高齢者産業」も拡充で、「日本と言えば、高齢者をケアする製品やサービスで右に出るものが無い国」と言うブランドを確立したら、世界中が日本を見る目をガラリと変えるのでは無いでしょうか? そうした働きかけが、「嫌老社会から賢老社会」へのターニングポイントとなる時代に私たちは立っているのかも知れません。

月曜日, 6月 05, 2017

スノーデン日本への警告-インタビューと本人不在のパネリスト討論

米国家安全保障局(NSA)による大規模な個人情報収集を告発し、ロシアに亡命中の米中央情報局(CIA)のエドワード・スノーデン氏に2016年6月に行われた独占インタビューと、同月東大で行われた4人のパネリストによる討論シンポジウムを纏めたものですが、もう時宜を逸している感もありました。

しかし、世界各国で自国益第一主義が蔓延り、国を導くべきリーダーが、「自分にとって良いか否かが全て、自分が何をやりたいかが全て」と、その論理国民の為では無く、自己正当化する我欲の論理が甚だしくなって来ています。

彼が慎ましくも言う「私達は皆人生の何処かで、易きに流れる道と正しい道の何れかを選ばなければならない場面に出会います。小さなリスクを取ることで社会をより良くすることが出来る機会がある筈です」は傾聴に値する気がします。

又、マスコミにも警鐘を鳴らし、「自由な報道は政府の言いなりではなく、政府による情報独占に対抗する必要があります。政府の動きを調査し、企業の動きを調査し、判明した結果を人々に伝えることがジャーナリストの役目なのです」、と近々政府広報にも達しているマスコミにも苦言を呈しているのも、少なからず正論と見えました。

時宜を逸していると思われるのは、6月2日付けのインタビューで少し進んだ警告を発しているからです。

日本政府が個人のメールや通話などの大量監視を行える状態にあることを指摘する証言。参院で審議中の「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案が、個人情報の大規模収集を公認することになると警鐘を鳴らした。

NSAは「XKEYSCORE(エックスキースコア)」と呼ばれるメールや通話などの大規模監視システムを日本側に供与、世界中のほぼ全ての通信情報を収集出来るもので、NSA要員が日本での訓練実施を上層部に求めた2013年4月付の文書を公開した。

今年5月29日の参院本会議で、安倍首相は文書を「出所不明」としてコメントを拒否したが、元職員は「供与を示す文書は本物だ。米政府も本物と認めている。日本政府が認めないことは馬鹿げている」と語り、欧米だけでなく日本等で個人監視が強まっていると憂い、「世界は歴史的転換点に差し掛かっている」と指摘し、現状を放置すればテロ対策を名目にした「暗い」監視社会が待っていると、口調を強めて警告した。

日曜日, 3月 12, 2017

繰り返された「生前退位」と天皇の正体-定説から外れた歴史観のアルトファクト

結論としては、生前退位は歴史上多数あり、又平安時代の院政の図式は考えられず、今上天皇の譲位(生前退位)を認めるべきだと言うのです。

しかし、定説から外れた著者特有の「関史観」と言う独特の歴史観から明かされる謎解きを展開し、藤原氏は百済王族の末裔と推断し、律令制度導入の混乱に乗じて、不安定となった天皇制度を我が物として「日本書紀」「続日本紀」を都合の良い様に編纂して、400年近い混乱を招いてしまったと断ずるのです。

細かい史実も網羅していて、邪馬台国は畿内の奈良盆地に大和朝廷なのだが、北部九州の「女酋」が朝鮮半島に進出して来たばかりの魏に対し「我々が邪馬台国」と偽りの報告をして、「親魏倭王」の称号を獲得したと言う本居宣長説が正解だとします。

天武天皇は天智天皇よりも4才年上で、蘇我系豪族の支えがあって、皇位に近い存在であったのだが、蘇我入鹿暗殺でその芽を摘んだと言うのです。 壬申の乱で、天武天皇が即位して藤原氏は遠ざけられるのですが、崩御後は持統天皇に阿り「持統朝は天智と藤原鎌足政権の再来」として復帰し、遂に外戚として栄華を奮う様になり、それ以前に天皇を補佐して来た蘇我氏や物部氏を悪者として扱った「日本書紀」を編纂して、歴史の真実を消し去ってしまったと言うのです。

歴史の碩学井上光貞氏の説も引用し、皇位継承の困難に際して、6世紀中葉から7世紀末まで譲位が多く、中継ぎとして6女帝が選ばれているのではと言うのです。

著者の藤原氏嫌いは徹底していて、そんな著書が多数ある様で、中には又同じ展開かと言う批判もあるようですが、政党歴史学界とはかけ離れた内容の展開は、古代史のエンターテナーとしては惹きつけるものがあり、近頃話題となっている所謂アルトファクト(Alternative Facts)として読むには面白い書籍だと思われます。

月曜日, 2月 20, 2017

世界征服100年マラソン中華覇権の夢-China2049 by Pillsbury

米国の歴代政権の国防政策を40年に亘って担当し、親中派として好意的に中国支援をしていたのですが、中国は好意を無にして米国に取って代わって世界覇権を目論んでいることを知り、その長期戦略に警鐘を鳴らす様になりました。
ビルズベリー氏の分析については、出典引用も多く妥当で見事とは、思うのですが、結論が至極甘いものと思わざるを得ませんのが残念です。
日本は既に中国の100年マラソンに巻き込まれて、苦い後塵を拝していると思うのです。
1972年の日中友好はソ連からの圧力対抗に利用され、ソ連がロシアに替わってその役割を終えて、GDPが日本を凌駕することが確実となった2000年の江沢民からは、中華覇権を称えて、小日本と揶揄して愛国反日を原則としたのです。反日プロパガンダの激しさは近年影を潜めてはいますが、友好的ではありません。

次は、中国は米国のGDPを凌駕する2049年には、米国も役割を終えて揶揄し、世界覇権を制覇することになると言う戦略を読み取ることが出来ました。

中国の戦略は、西洋の歴史的成功と古代中国の盛衰を学ぶことに基づき、態勢を整えておいて、好機が訪れたらそれを逃さないと言うのが本質だ。
100年計画で世界制覇を樹立する為の9要素があって、
1. 敵の自己満足を引き出し、警戒態勢を取らせない
2. 敵の助言者を利用する
3. 勝利の為には、数十年或いはそれ以上我慢する
4. 敵の考えや技術を盗む
5. 軍事力は決定的な要因ではない
6. 覇権国は、極端で無謀な行動を取る
7. 勢いを失わない
8. ライバルの相対的な力を測る尺度を確立する
9. 他国に包囲され、騙されないしない様にする

100年計画の途中経過として、世界は次の危機に晒される
1. 中国の価値観がアメリカの価値観に取って替わる
2. 中国はインターネットの反対意見を検閲する
3. 中国は民主化に反対する
4. 中国はアメリカの敵と同盟を結ぶ
5. 中国は大気汚染に依る世界終末を輸出する
6. 成長戦略は水の枯渇と汚染を引き起こす
7. 発癌性物質を使用する食品も輸出する
8. 欺く窃盗のチャンピオンを野放しにする
9. 国連と世界貿易機関を弱体化させる
10. 営利目的で兵器を量産する

結論として、中国政府は今後数十年に亘って、戦争や領土侵略ではなく、経済、貿易、通貨、資源、地政学的協力を巡る攻防を展開する。 それと張り合うには、野望を見極め、国際基準の境界を踏み越えそうになったら、その動きを非難し警告することが必須となる。

日曜日, 2月 05, 2017

出色キャスターの内省的回顧録-キャスターという仕事

23年間に亘って、NHK「クローズアップ現代」のキャスターを務めた国谷裕子女史の半生の内省回顧録で、キャスターという仕事のあるべき姿を提示していて興味深いものがありました。

アメリカの大学を卒業、帰国子女で小学校の数年を除いて、海外の大学やインターナショナルで教育を受けたことでNHKからの依頼もあって国際報道を担当しますが、日本のことを知らず、日本語の「てにをは」がおかしく、辛酸を嘗めてしまいます。
NHK職員ではなく、契約社員であったこともあって、業務に縛られずに、降板と言う失敗を克服すべく自己研鑽を重ねます。
そしてノウハウを積み重ねる研鑽と臥薪嘗胆が功を奏して、遂に1993年、「クローズアップ現代」と言う、政治、経済、事件、災害、社会、文化、スポーツと幅広いテーマを扱う番組のキャスターに抜擢されたのです。

それから23年間、3800件に近くキャスターとして、個人が組織、社会に抗って生きるのは難しいと、企業不祥事が起きると法令順守、リスク管理を喚起したのですが、社会全体に「不寛容な空気」が浸透して行くのを感じて、公共放送の公平さに則り、企業のみならず政府にも直言を呈する様になります。

安倍政権が望んだ政府に従順なNHK会長が就任することで、政府に直言する傾向のある「ニュース9」キャスターの大越氏の降板に続き、やらせ番組を報道したとして「クローズアップ現代」のキャスター国谷裕子女史の契約解除と言う事態となりました。

「あとがき」には、「トランプ大統領がメディアは余計なフィルターとしてTwitterを使って情報発信をして「Post-Truth(脱真理)」の世界が広がりつつある。しかし、人々の生活に大きな影響を及ぼす立場にある人に対して、発言の真意と根拠を丁寧に確かめなくてはならない。ジャーナリズムがその姿勢を貫くことが、民主主義を脅かす「脱真理」の世界を覆すことに繋がると信じたい」と結ぶのです。

将に民主主義の危機と警告しているのが感じられる書籍でした!

日曜日, 1月 22, 2017

マンションの資産価値は?-マンション格差

マンションも築30年以上が当たり前になり、問われるのがマンション毎の格差で、既存マンションによる激しい大競争時代が始まっていると言うのです。
講談社現代新書「マンション格差」では、東京圏中心で、東海道線、中央線、私鉄では小田急線沿線で、マンションの格差を論じ、購入時の心得や整備法を示し、資産価値をどの様な保持するのかを示唆します。

私は日本住宅公団(現 UR都市機構)が、1980年代に「多摩ニュータウン」に造成したマンション群の一つに、1985年に入居しました。
この団地は1984年完成で、最寄り駅から徒歩15~18分の位置にあり、当時は住宅公団の住宅は「遠くて不便で高い」と言う評価が一般的で、完成から1年経過しても、空き家があったのです。

連棟式低層タウンハウスと中層5階建てマンションの混在する186戸の中規模団地、主契約者は大手の大成建設で、複数の下請け業者が建立、仕様は大成建設が設定していますので、彼等が手掛けていてよく観掛ける郵便局建屋に見えないこともありません。


建物は躯体鉄筋コンクリートに、5cm程のシンダーと言いますか化粧コンクリートを被せ、表面にはシリコーン塗装をしてありますので、メンテナンスは施工しやすいのです。 12年毎の大規模修繕が行われ、シリコーン塗装塗り直しも丁寧な刷毛塗りを指示したことで、半永久的に鉄筋コンクリートの劣化が無いのだろうと思われます。

資産価値は、購入当時は平均3400~3600万円でしたが、メンテナンス整備が良いこともあって、駅から遠いハンデにも拘わらず、半値は確保している様ですし、期待しています。

現状、大都市圏では「ニュータウン」を拡大する必要が無くなっている。嘗て猛烈な勢いで開発された「多摩ニュータウン」では一部の過疎化が進行している。
日本全体では800万戸以上も余っている。そんな状況の中、新築マンション供給は徐々に細って行き、10%未満にまで減り、アメリカやイギリスと同様に、中古住宅が住宅市場の主役となる。その場合、マンションに問われるのは立地の評価で、次に建物の管理状態となり、資産価値が決められて来る。
これまで大量に建設された分譲マンションは、その出口戦略を構築することが迫られるし、今の区分所有法では恐らく処理しきれないだろうが、マンション価値をしっかりと保持し、「格差競争」の中で有利なポジションを維持することが求められる。

日曜日, 1月 15, 2017

日本会議の研究(扶桑社新書)-1年間の調査報告&告発書

安倍首相はある宗教団体の影響を大きく受けていると、週刊誌などでは報じられてはいましたが、大手の新聞・TV既存メディアでは根拠が薄弱なのか報じられることはありませんでした。
本書は、1年間の緻密な調査報告書として、安倍政権の“黒幕”と噂される右派団体・日本会議とは何かと言う疑問に応えてくれています。

「安倍政権の暴走が止まらない。特定秘密保護法、集団的自衛権、安保法制の強行採決、傍若無人な政権運営は留まる処を知らない。 この幼稚さと野蛮さ目立つ自民党の背後には、必ずと言って良いほど、日本会議と日本青年協議会を始めとする「一群の人々」の影があるのだ。
70年安保の時代から、安藤巌、椛島有三、衛藤晟一、百地章、高橋史郎、伊藤哲夫と言った「一群の人々」は、休むことなく運動を続け、今、安倍政権を支えながら、明治憲法復活と言う悲願達成に王手を掛けた。
デモ・陳情・署名・集会・勉強会と言った「民主的な市民運動」をやり続けていたのは、極めて非民主的な思想を持つ人々だったのだ。 このまま行けば、「民主的な市民運動」は日本の民主主義を殺すだろう、何たる皮肉、これでは悲喜劇ではないか!」と告発するのです。

名指しされた椛島有三氏は、6箇所の表現修正が為されなければ名誉毀損と、出版差し止めを求めて提訴、1ヶ所は該当するとして出版差し止めが認められました。
私が拝読した限りでは、全編告発の書でもあり、その1ヶ所は特定出来ませんでした。

「美しい日本の憲法をつくる国民の会」は、新憲法制定を求める1000万人署名をめざす団体で、単純明快な方法で解説する。
会の共同代表3人のうち2人は日本会議の名誉会長や会長。会の事務局長も日本会議事務総長で、その他の役員もほとんど重複している。
日本会議は歴史教科書の採択など個別のテーマごとに別働団体を作り、草の根の運動のような形をとって政治に働きかけ、目的を達成してきたからだ。 彼らが勝負をかける「改憲」では、前述の「国民の会」のほか「新憲法研究会」や「『二十一世紀の日本と憲法』有識者懇談会」(通称「民間憲法臨調」)が作られている。
これらの団体は特段、日本会議系団体であることを隠しもしない。あくまでも別働部隊として、個別にシンポジウムを開催したり署名活動を行ったり、街頭演説を行ったりと実にさまざまなチャンネルで、自分たちの主張を繰り返し展開していると著者は言う。