土曜日, 12月 22, 2007

ハイタン(Hythane)とナチュラルハイ(Naturalhy)

21世紀は化石燃料も枯渇を迎えて、水素エネルギー利用無しにはエネルギー供給(Energy Supply)が成り立たなくものとされています。
しかし、一挙に転化できるものでも無く、当面は埋蔵量豊富な天然ガス(Natural Gas)を燃料としつつ、段階的に天然ガスに水素を混ぜたハイタン(Hythane)、究極的には水素(Hydrogen)を用いることが妥当とされています。

ハイタン(Hythane)はアメリカにて使われる造語で、 Hydrogen+Methane=Hythaneとされ、米国のBrehon Energy PLC の商標登録用語とされています。
ヨーロッパではナチュラルハイ(Naturalhy)、即ちNatural Gas+Hydrogen=Naturalhyと呼ばれているのですが、アメリカ造語の方が使い易いと思われます。

ハイタン(Hythane)若しくはナチュラルハイ(Naturalhy)は、天然ガスに水素を15~20%混ぜたもので天然ガスに比べ、温室効果ガスや大気汚染物質を約50 %削減すると報告されています。


水素(Hydrogen)の時代は2050年以降と考えられていましたが、COP13のロードマップを考えますと、ハイタン(Hythane)利用が加速して、2020年には水素(Hydrogen)エネルギー時代が始まるものとみて準備を始めておく必要がありそうです。
水素エネルギー社会が実現すれば市内に水素パイプラインが敷設されて家庭や工場に水素が送られることが予想されますが、水素供給チェーン(Supply Chain)での主たるコスト要因は、製造では無く配送と貯蔵と考えられており、長期的な解決策は、水素パイプライン・ネットワーク(Hydrogen Pipeline Network)の構築にあるとされています。

水素ガス・パイプラインの実態漏洩調査から、パイプライン接続部やシール部は、天然ガス・パイプライン以上に頻繁にチェックする必要があることが確認されており、水素ガス・パイプラインは、一般に天然ガス・パイプラインよりも低圧で操業されているのが現状となっていて、エネルギー輸送量が低くなってしまうのが問題となっています。
従って、漏洩防止構造設計と防爆安全設計の向上を綿密に企画し、安全で効果的な高圧力でのハイタン輸送から水素ガス輸送実現が、今後喫緊の課題になるのだと思っています。

月曜日, 12月 17, 2007

高性能リチウムイオン電池

リチウムイオン電池は初期型メタハイ(MH)電池よりも、エネルギー密度が高く使用寿命も長いことから、ノートパソコンなどモバイル情報機器に多く使用されています。しかし、過充電は電池を急激に劣化させ、最悪の場合は破裂・発火すると言われ、実際にモバイル機器の電池が火災や爆発が起きて回収となった事例が多くありました。

東芝は12月11日、高温や低温など過酷な条件下でも発火や破裂の恐れが少ない新型の高性能リチウムイオン電池「SCiB(Super Charge ion Battery)」開発成功と事業化計画を発表しました。
「高い安全性、長寿命、急速充電性能、高出力、低温性能」との特徴が挙げられています。

負極材に従来のコバルト酸リチウム(LiCoO2)に替えてチタン酸リチウム(LiTiO2)を採用、引火点の高い電解液や耐熱性セパレータを組み合わせ、内部短絡が起こっても熱暴走を起こしにくい。
バッテリを物理的につぶして短絡させても、セル温度は100℃未満で収まり、発煙も発火も生じない。
急速充電を3000回繰り返しても容量低下は10%未満、約5000回を超える繰り返し充放電が可能。5分間で電池容量の90%以上の充電が可能。
電気二重層キャパシタ並みの高い入出力性能(パワー密度)、マイナス30度の低温環境でも十分な性能を維持するとされている。
2008年3月から量産を開始しつつ、非常用電源・風力発電平準化電源への産業用途、電動アシスト自転車・ハイブリッド車など電動車両への適用を模索し、2015年度には売上高1000億円規模を目指すらしい。


発表された「SCiB」性能の特性上、モバイル用リチウムイオン電池の電圧やエネルギー密度が及ばないことから、現状では携帯電話・パソコン機器向けとは位置づけられていないのが残念です。
しかしコバルトはレアメタル(稀少金属)ですから、チタン適用電池の方がコスト的にも安価に出来る可能性も秘めています。

燃料電池(Fuel Cell)と共に期待したい技術ですし、小型化は寧ろ高性能リチウムイオン電池の方が向いているのではと思っています。

月曜日, 12月 03, 2007

C-X輸送機用エンジン選定

私が初めて飛行体験したのは、航空自衛隊木更津基地でのC-46輸送機で、1963年のことでした。座席後部には落下傘降下用の開口部があって、歩いて行けば落ちるのだと少し怖かった思い出も残っています。
C46

それから45年経ちましたが、驚くほど防衛用輸送機は進歩しようとしています。それにつれて調達費用も莫大となり、防衛利権が暗躍する事態となり、賄賂・収賄が取り沙汰されているのは許されることではありませんが、エンジン選定結果そのものは極めて妥当だと思っています。

C-X (Cargo aircraft-X) は、防衛省・航空自衛隊における「次期輸送機」の一般名称で、第一次C-XはC-46の後継として1960年代に計画され、防衛庁技術研究本部と川崎重工業が開発したターボファンエンジン双発の中型輸送機でC-1として採用された。
第二次C-XはC-1の後継として2000年に計画され、防衛省技術研究本部と川崎重工業にて開発が進められている、ターボファンエンジン双発の大型戦術輸送機である。

C-1と比較し積載量は3.75倍・飛行速度は1.2倍、航続距離はC-1がペイロード8t搭載時に約810kmに対し、C-Xは12t搭載時に約8,900kmとなっている。
C-X技術仕様
乗員: 3名(パイロット2名・ロードマスター1名)
寸法: 43.9m L x 44.4mW x 14.2mH
最大離陸重量: 141,100kg
最大積載量: 37,600kg
エンジン出力: 27,900kg(推定)×2
巡航速度: Mach 0.8 (高度12,200mのとき)
巡航高度: 12,200m
航続距離: 0t/10,000km 12t/8,900km 37t/5,600km

装備するエンジンは、ロールス・ロイス(RR)、ゼネラル・エレクトリック(GE)、プラット&ホイットニー(P&W)の3社からの提案を検討した結果、2003年8月にGEのCF6-80C2型エンジンを採用した。CF6-80C2のカタログ価格は1基1,000万ドルである。
選定に際しては、導入されているB747-400(政府専用機)やE-767、導入予定のKC-767が同一エンジンを採用しており、整備面で都合が良いことから決定されたと思われる。海外でも広く普及している為、渡航先での整備拠点もあり、又日本国内のエアラインもボーイング社製の機体と共に、同系統エンジンを600基以上採用しており、信頼性の高さと国内での運用経験も選定の根拠とされている。


この大型ファンエンジンを供給出来るのは、ゼネラル・エレクトリック(General Electric: GE)社、ユナイテド・テクノロジー(United Technologies)傘下のプラット&ホイットニー(Pratt & Whitney: P&W)社、ロールス・ロイス(Rolls Royce: RR)社と、世界に3社しかなく、選定候補は次の様だったと思われます。

P&W候補エンジン: PW-4062 (推力 28,100kg)
GE候補エンジン: CF6-80-C2(推力 27,900kg)
RR候補エンジン: RB-211-524G(推力 27,200kg)

いずれのファンジェットも優れたエンジンですが、私が選定責任を負わされても、燃料消費(Fuel Economy)・運用実績(Flight Experience)・整備体制(Logistics Support)・環境適合(Low Emission)などの観点から、多分GE社のCF6エンジンを選んだと思います。

民間大型旅客機B747開発ではP&W社JT9DとRR社RB211が搭載エンジンを競ったのですが、JT9Dに軍配が上がり、RR社は開発費が嵩んだことで倒産し英国策会社となりました。
遅れを取ったGE社は軍用輸送機C5A‐Galaxy(ペイロード118t:大型戦車輸送可能)搭載のTF39を受注することで、それを民間用に設計変更しCF6シリーズを展開、燃料消費率の優秀さから民間大型旅客機への搭載が増加してP&W社JT9DとRR社RB211を凌駕する事態となりました。
そこでP&W社はJT9Dエンジンを全面設計変更してPW4000シリーズを展開して、3社供給体制を維持して来たのです。

今回のC-X輸送機用エンジン選定問題、山田洋行が防衛利権を掛けて暗躍し賄賂・収賄が取りざたされていますが、選定結果そのものは極めて妥当だと思っています。

土曜日, 12月 01, 2007

M82星雲-すばる望遠鏡の宇宙

M82

おおぐま座にあり、1200万光年の彼方に位置する銀河M82星雲の可視画像。
大きく左右に伸びた白い星雲が星の集団で、上下に広がる赤い筋は中心部での星形成が引き起こす高温の水素ガス風だ。
この銀河の中心部では太陽の10倍以上の巨星が一時に何万個と生まれるのだから、実に激しい爆発的星形成銀河(Starburst Galaxy)だ。


此処までスケールが大きくなって来ますと、人生への屈託も無く、純粋にロマンと知識探究の楽しみのみで痛快の限りです。
人類は太古の昔から、夜空の天体を観測し、星座を作っては神話と融合させる楽しみを育んで来ました。近世、ガリレオの屈折式望遠鏡、ニュートンの反射式望遠鏡の発明からは詳細な天文学も発達して、ロマンがより壮大なものになりました。

すばる望遠鏡の宇宙-岩波新書(著者 海部宣男 写真 宮下暁彦)

著者は、1999年400億円を掛けてハワイ島マウナケア山頂に設置した日本が誇る「8.2mすばる望遠鏡」のプロジェクト・リーダとして建設・運用を纏め上げた経過・結果を記述したもので、直接責任者としての思いが強く感じられる著作となっています。

機器製作、現地建設、運用後の天体写真も、多数のカラー写真で説明されるので、読んでも眺めていても楽しいものがありました。
「すばる望遠鏡」性能の素晴らしさから、数々の成果を得て、ビッグバンから宇宙が膨張し続けている様子、アインシュタイン相対性理論の重力による光の歪みも検証出来たことが平易に説明されています。
著者は、技術論から科学論まで説得力があり、プロジェクト・リーダとしても、天体研究者として優秀なのだと実感させるものがありました。

アルマは、日本の国立天文台、EUのヨーロッパ南天文台(ESO)、米国の国立電波天文台(NRAO)の3者が協力して建設、運営する大電波望遠鏡。
南米チリ標高5000mのアタカマ高原に80基の高精度パラボラを10km以上の範囲に配置するプロジェクトは進行中で、精密なアンテナ搬入も始まっている。


「すばる望遠鏡」以降の新しい大型精密望遠鏡計画の紹介もあって、天体への知識欲・探究心は留まることが無い様です。

月曜日, 11月 26, 2007

新聞社 破綻したビジネスモデル(新潮新書)

言論の自由が役立つ場面よりも、報道被害の方が目に付く中で、国民は「マスコミは知る権利に本当に応えているのか。寧ろ私権を侵害しているのではないか。マスコミに公共性があるとするなら、具体的に示して欲しい」と問いかけるようになった。実際、ワイドショーの中には自分で自分の首を絞めているとしか思えないものがあります。

著者の河内孝氏は、毎日新聞の営業担当常務を務めた人物で、業界内でも語られない販売の裏側について、生々しく紹介しているのは珍しいかも知れません。

「販売が大変だから改革せねばならない」ことには、全員賛成でした。改革案を役員会に提示し全員一致で決めたのです。身を切る改革に販売局、販売店主達から相当の反発、抵抗が起きることも当然覚悟していました。
結果的には私には想定内の事態が、他の人達には予想外の深刻な事態になってしまい、改革は挫折し、私は退任・退社したのですが、誠に残念でした。


ジャーナリズムを議論するのでなく、ビジネスとしての将来像を見つめることで、これまでの新聞批判本とは違う特異性はあります。
3大新聞と呼ばれて来ましたが、圧倒的に読売、朝日のメガ新聞に差を開けられてしまった、毎日新聞の再生の為に採るべき方向を指し示しているのが本書の狙いの様でした。
それは第三極構想とされ、毎日新聞を中心に産経新聞・中日新聞が業務提携するというもので、中部圏では非常に強固な地盤を持つ中日、首都圏では産経、九州地区では毎日が強い地盤なので、連携すれば全国紙の展望が開けると言うのです。
しかし、毎日サイドの我田引水的な色彩が濃く、連携相手とされる産経・中日側には、危機に瀕した毎日と連携するメリットは少ないのでは懸念せざるを得ません。

結局は、社内改革抗争に敗れた著者が、出版社の力を借りてその改革案を世に問うた著作ですが、読み進む内に社内文書を読まされている感じがして仕方がなく、何とも読み応えが無いのが如何にも残念でした。

水道本管(ダクタイル鋳鉄)の更正工事-多摩ニュータウンの事例

多摩ニュータウンでは幹線道路での水道管の更正工事が始まって久しく、半年を経過しても完了していません。処々に路線規制もあり、アスファルト路面も凸凹でとてもスムーズな走行は出来ません。
当初はねずみ鋳鉄(Gray Cast Iron)管からダクタイル鋳鉄(Ductile Iron)管への更新をしているのかと思っていたのですが、1970年代に開発された多摩ニュータウン地区は最初からダクタイル鋳鉄(Ductile Iron)管が敷設されていた様で、今回は「高度浄水」のコンセプトにも対応した管内エポキシ塗装を更新・更正する工事の様です。

東京都水道局では、平成19年4月からNS形ダクタイル鋳鉄管の採用口径を呼び径75~250mmまでを呼び径1,000mmまで拡大したことに伴い、説明会を平成19年3月に開催しました。
その後の入札結果から、施工企業が選定し、ダクタイル鋳鉄管の直管の管内面塗装を現行の呼び径350mmから呼び径1,000mmまでモルタルライニングからエポキシ樹脂粉体塗装への変更工事を行いますのでお知らせします。
留意事項:
US形ダクタイル鋳鉄管の内面継手管・ダクタイル鋳鉄管推進工法など、管路内での作業を伴うものについては、従来どおりモルタルライニング管としますのでご注意ください。


ダクタイル鋳鉄とは、普通鋳鉄の衝撃に弱い欠点を克服し、鋳鉄でありながら鋼と変わらない強度と伸び特性を持つ「球状黒鉛鋳鉄」。1954年クボタが世界にさきがけて大口径ダクタイル鋳鉄管の製造に成功させ、1957年には遠心力鋳造法によるダクタイル鋳鉄管の量産を実現させた。

厚生省では1991年には「フレッシュ水道計画」を策定、「質の高い水道施設づくり」として21世紀に向けた水道整備の長期目標を示し、地震などの災害にも強い水道を強調した。更にモータリゼーション進展により管路に加わる荷重は一層の増大傾向にあり、広範な地域で発生している地盤沈下と言う深刻な課題克服もあり、ダクタイル鋳鉄管は、瞬間的に発生する巨大な衝撃に耐え、長期間にわたって厳しい圧力に耐える要求に応える戦略素形材として位置付けられている。
又、現代の都市事情・交通事情に見合った新しい施工技術。たとえば「パイプ・イン・パイプ工法」「既設管破砕推進工法」も開発されている。既設パイプをさや管としてその中に新パイプを挿入し管路更新する工法である。パイプ接合を省人自動化する「接合ロボット」の研究開発も進む。「高度浄水」のコンセプトにも対応したパイプ内面処理技術の高度化(内面エポキシ樹脂粉体塗装)も進む。


幹線水道本管がエポキシ塗装となりますと、各家庭への小さな給水管は塩ビ製ですから、これでは全てプラスチック配管で供給された水道水を飲むことになり、プラスチックからは環境ホルモン物質の溶解が懸念されることになります。
この様なシステムを変更することは困難と思われますが、近頃多くなった飲料水・お茶販売なども全てペットボトルで販売されていますので、その不安は消えません。

月曜日, 11月 12, 2007

石油100ドル/バレル時代の衝撃-代替石油の可能性

石油価格の指標となるNY原油 WTIは現時点95ドル/バレルとなっていて、今にも100ドルを超える情勢となるに留まらず150~200ドル/バレルも予測され、生活への影響は甚大になりつつあります。
一方NY天然ガスは8.3ドル/MMBTUで、相場価格は倍額近く上昇しているものの、原油程の高騰とはなっていません。しかし、このままの単位単価ではエネルギー源としての価格比較は難しいので、原油価格を熱量ベースで天然ガスと同じ単位になる様に算出することにしたい。

1バレル=42ガロン(=159リッター)、石油密度8.34lb/ガロン(=0.82kg/リッター)、石油熱量18,000BTU/lb(=10,000kcal/kg)とすると、石油1バレルに含まれる熱量は(42*8.34*18,000BTU)=6.3MMBTUとなる。

即ち、原油 WTI価格は95ドル/6.3MMBTU=15.1ドル/MMBTUとなり、同じ熱量の天然ガス価格に比べて概略1.8倍の価格となっていることに留意したく、やはり原油相場は極めて投機的色彩が強いのです。

日本の電力・ガス各社はLNGバッチ輸送にて25年長期契約で天然ガスを輸入しており、3ドル/MMBTU程度で、現時点驚くほど安価なエネルギー源となっています。
この天然ガスから代替石油を製造し流通させるのが、バイオ燃料と異なり食料穀物市場との軋轢も無く、現時点では最善の方法と考えています。

フィッシャー・トロプシュ(FT)法を用い天然ガスから石油を製造するGTL(Gas to Liquids)商業用プラントが稼働している。
GTL技術により精製した石油は、硫黄やアロマ分(芳香族)を含まず、排気ガス中の煤塵や硫黄酸化物の有害物質が少なく、環境への負荷が小さい次世代エネルギーとして注目されている。
2006年シェル社ではマレーシアの商業用プラントを稼働させつつ、2010年を目途にメジャー他社とも共同でカタールに世界最大規模のGTLプラントを完成させ、普及拡大を図る方針と伝えられる。日本でも石油資源開発で研究が進められていて、2007年9月新潟市で実証プラントの起工式が行われ、2008年の完成を目指すとされている。

このGTL代替石油、原油よりも可採年数が長いとされる天然ガスを利用するので、長期の安定供給が可能とみられている。又、マイナス162℃の液化天然ガス(LNG)とは異なり、常温での流通が可能で、従来の石油インフラが全て使える利点がある。


1年前に記述しました“GTL-クリーンな代替石油”と言う日記はこちらです

石油時代は終わったと極論する人もありますが、ハンドリング容易なことから離れ難いものがあるのです。
しかし、経済発展に合わせて石油供給量を増やすことを画策するのでは無く、省エネを進めて石油使用量を何とか少なくする工夫が、今求められている喫緊の課題だと思っています。

金曜日, 10月 05, 2007

超臨界水による廃液処理

今朝のNHKニュースで、広島県の機械メーカが「超臨界水による廃液処理装置」を製造・販売していることが報じられていました。
注目しているのは焼酎メーカ業界、醸造後の廃液を従来は海上投棄していたのですが、これからは投棄禁止となり、年間22万トンに及ぶ廃液処理は喫緊の課題となりました。
デモンストレーションによると、どろどろの廃液は、超臨界水を使うことで水と2酸化炭素ガスに分解され、固形物は何も残りません。
しかしニュースで見る限り、実験室規模に近く、年間22万トンに及ぶ大型廃液処理プラントが実現するには未だ壁が幾つかある様な気がします。
それでもこのようなニュース報道には、環境技術の進歩が感じられ、持続可能な社会実現への一歩とも思われ、嬉しいものがあります。

超臨界流体は、入り込む気体の性質(拡散性)と、成分を溶かす液体の性質(溶解性)を持っていますので、環境/医薬品分野での有機溶媒の代替としても利用でき、環境に優しい技術として注目を浴びています。

水の場合は圧力22.1MPa・温度374℃、二酸化炭素の場合は圧力7.4MPa・温度31℃を超えた領域で超臨界状態となります。

超臨界水利用は1990年代中頃から始まっていましたが、超臨界二酸化炭素に比べて相当の高温・高圧が必要で、特有の取り扱い難さを伴って進展はなかなかの様でした。
しかし、燃焼処理とは異なり、ダイオキシンやNOx(窒素酸化物)等は発生しませんので、特にプラスチック処理・ダイオキシン分解等には、環境にも優しい超臨界水利用の処理装置実用化の進展が期待されます。


この種の問題は、何時もコスト競争力の有無が、最後の難関となります。

溶剤を使わない超臨界二酸化炭素でのクリーニングは、環境に優しく繊維を傷めず、色落ちも無いことで、数年前に話題になりましたが、現在業界に浸透しつつあるのでしょうか?

土曜日, 9月 01, 2007

ボーイング737事故原因は設計変更不良の疑い

ボーイング737事故原因は設計変更不良の疑いが濃くなり、ボーイング社の製造物賠償責任(PL)法を始めとする法的責任が問われることになる気配となりました。

ボーイング737旧世代機からハイテク装備の新世代機にする際、前部可動翼(スラット)アームを取り付けるナット直径をボルト穴とほぼ同じで抜けやすいものになっていたことが分かった。
旧世代機のナットは直径1.4cmで、新世代機より30%大きい。アーム穴はそれより小さく、しかもボルト穴とナットの間にあるダウンストップ内径は0.8cmで、ワッシャーが無くてもナットが抜けない構造となっていた。
新世代機ではナット直径1.06cm、スラットアーム穴1.12cm、ダウンストップ内径は1.06cmであり、ワッシャーの介在無しには抜け落ちる懸念のある構造となっている。
整備士は「旧世代機の仕様の方が理にかなっている」と話している。


何故その様な設計変更が行われたのか現段階では不明ですが、私は「部品共通性を図った結果」だと推測しています。
何十万点ともなる航空機部品は、共通化が図られれば製造コストダウンも達成出来ますし、使用工具類も少なくなりますので、組立・整備工数も格段に少なくなるのです。
今回問題となったナットは、飛行機での違う構造部材との共通部品になっているに違いありません。
設計時の設計審査(デザイン・レビュー)では、他方面からFail Safe(間違っても安全な運行可能)・Fault Tolerant(未習熟の行為でも安全性確保)が厳しく問われる筈なのにと考えますと、何故見過ごされたのか不思議でなりません。
万全を期しても人知は限りがあるのですが、今回の不具合は「企業倫理を忘れコスト優先に走った」と言う企業営業論理の結果かも知れません。

火曜日, 7月 17, 2007

SS400とSPHC-フジテック・エレベーターの強度不足問題

フジテック・エレベーターの強度不足問題ではつくづく日本製造業の技術力低下を実感しました。

技術力は組織の総合力によって支えられ、設計、製造、購買、営業の各部門がベクトルを合わせて良い製品を造り上げることにあると言っても良い。
何らかの変更が余儀なくされた時は、各部門が連携をとってより良い製品への設計変更・次善の策を模索する方法が長い間培われて来たのです。その中でも、設計部門においては担当者の考えがOJTで上司からダブルチェック・トリプルチェックされ、設計組織全体の責任として他部門に展開されたのです。

強度部材用のSS400に比べ、板金プレート部材のSPHCは強度的に30%劣るのに、見過ごされたミスは信じられません。
今回の強度不足問題は、購買と設計の連携不足にあると言っても間違い無く、担当者の「少しでも安価な鋼材でも良い」と判断したことにありそうだ。
人間個人の考え方には限界があり、総合的組織判断力に委ねる必要があるのだが、今回は欠落していたと断ぜざるを得ません。
売上高・利益率至上主義の蔓延で、部門内のOJTもままならず、又部門間の連携が破壊され、日本製造業の技術力低下は加速度的に低下しているのだと危惧しています。

SS400 一般構造用圧延鋼材(JIS G3101)
SS(Structural Steel)400:最小引張強さ400N/mm2
用途 車両、建築、橋梁、船舶等の強度部材

SPHC 熱間圧延軟鋼及び鋼帯(JIS G3131)
SPHC(Steel Plate Hot Commercial):最小引張強さ270N/mm2
用途 大型キャビネット、各種機械部品のプレート部材


しかし、「プレート部材を強度部材に使用するとは!」、ISO9000規格をどうのこうのと言う前に、基本的技術判断力に欠けた行為で愕然としてしまいます。

水曜日, 6月 27, 2007

年金問題の正しい考え方-中公新書

社会保険庁が管理する年金保険料の内「宙に浮いた年金記録」が5095万件、更に93万件と1430万件もの不明年金が在ったことも発覚して、社会保険庁の杜撰さが指摘され、政府首脳のボーナス返納から社会保険庁職員のボーナス返上と、マスコミを賑わせている。
「年金問題を政争の具にすべきでは無い」と言うのは正論であるが、政治家の発言行動は混迷を極め、マスコミの論調も相変わらず異常事態を騒ぐだけで何の見通しも無く、一刻も早い「短期的な救済策」から「長期的且つ建設的な制度提言」が何も見えて来ない状況は「不可解」の一言に尽きる。

そこで、マスコミ情報に踊らされずに年金問題を考えてみたいと、下記の書籍を買って来ました。

年金問題の正しい考え方-中公新書(盛山和夫 著)

年金を巡る政治家の提言やマスコミの論調も、相変わらず混迷が続いている。元来、年金制度は人々に安心をもたらすものである筈なのだが、今ではそれ自体が不安の源となっている。

年金制度は現代福祉国家の持続可能性に関わっている。公的年金は社会的弱者だけの福祉ではなく、全ての国民を対象に生活基盤を安定化することを目指した包括的制度であって、国家が果たすべき基幹的機能の一つである。
今や社会保障費全体は毎年80兆円を超えて、ほぼ国家一般会計の予算規模に匹敵しているが、年金給付は半分の40兆円を超えており、GDP(国内総生産)の10%近くに達している。しかも、年金制度は、限られた世代を超えて異なる世代がお互いに協力し合いながら、永遠に続いて行くことを前提にした超長期的な社会的協働の制度である。


2004年国会において「年金制度改訂2004スキーム」が提出されたが、政治家の年金未加入問題でもめて、実質的な議論が出来ずに通過させてしまった。100年安心とも与党が自賛した「改訂年金制度」は、結局、公平性の観点からは失格していると警告している。

基本的な制度設計を、狭い範囲の官僚と専門学者と言った少数の人達だけに任せて来たのが、問題の根本解決を阻んできた最大の原因である。この状況を変えて、多くの人々が仕組みについての基本的知識を持った上で、積極的に議論参加出来る様にしなければならない。

そして、「望ましい年金制度は次の4項目の基準が満足することが必要で、専門家だけでなく、多くの人々が積極的に議論参加出来る様にしなければならない」とし、将来世代に対する我々の重大な責任としているのには説得力がありました。

基準1 持続可能であること
基準2 それぞれの世代内では、同一拠出に対して同一給付となること
基準3 異なる世代間で、相対的年金水準が一定に保たれること
準則 現役世代の負担が一方的に上昇したり、高齢者世代の給付水準が一方的に削減されないこと。
基準4 将来の拠出負担と給付水準は、人口変化と経済変化に左右されるが、どの様に決まるのか、明確な予測が提示されること

水曜日, 5月 30, 2007

白洲次郎の日本国憲法

白洲次郎は「吉田茂の茶坊主」「ラスプーチン」と揶揄されながらも、黒子に徹していた為か、あまり知られていない。しかも政界での活躍のみならず、戦後日本復興の原動力となった通産省設立、9電力会社体制構築、東北電力社長就任と経済界での活躍も幅広い。

白洲次郎の日本国憲法-(光文社知恵の森文庫 鶴見 紘 著)

戦後日本の方向を決定した日本国憲法制定、対日講和条約に重要な役割を果たしたのだが、黒子に徹していた為か、記録上はおよそ知られていない。吉田茂の右腕としてGHQと対峙し、一方では自由党代議士連を牛耳り「白洲300人力」と囁かれつつ、日本国憲法制定に深く関わった。

1989年に「隠された昭和史の巨人-白洲次郎の日本国憲法」として発行され、白洲ブームの先駆けとなった一作の加筆修正版らしい。

しかし、章の構成に問題があるのか、著者の熱い思いが伝わって来ないのです。
加筆された最終章には「文庫化にあたって 白洲次郎が考えていたこと」として、白洲次郎に対する熱き思いが大いに感じられのだが・・

考えてみると、取材をしつつ資料提供を受けた白洲正子夫人に敬意を表して、巻頭言を譲ったことにその原因があると見ました。この「特別寄稿 ソアラの縁」がこの書籍とベクトルがずれているのだ。随筆家として知られる白洲正子だが、その文体が軽すぎて、しかも変な先入観を読者に植え付けてしまうのが頂けない様に思われるのです。

読了して、最終章と巻頭言を入れ替えることで、著者の熱い思いがストレートに伝わってくるのでは無いかと判断せざるを得ませんでした。
夫唱婦随とは言いますが、このままでは婦唱のみとなっていて、これはいけません!

水曜日, 4月 25, 2007

種子島宇宙センター

種子島
この写真は15年ほど前、種子島宇宙センターを訪問した時のもので、向かって右に並んでおられる現地所長にセンター内を案内して貰った時のものです。

当時はJAXAでなくNASDAの時代で、ロケットもH-II、3重工が独立に現地事務所を開設し、NASDAをサポートしていました。
その前年、H-IIメインエンジンLE-7がエンジン試験場で破損事故を起こしたので、原因究明と対策が検討されている時期でもありました。
水素・酸素燃焼では炎温度が3200℃にも達するので、エンジン試験場への影響・被害も心配でした。

今ではロケットは改良型のH-IIAとなり、製造責任は三菱重工が全体責任を負う様に変更となりました。やはり受け取り機構のJAXAでなく、製造責任がメーカでなければなりませんので、これは正しい改革だと思っています。

現在は国際的に評価される20機連続成功を目指しているのですが、国際競争力を高める為には、一層の品質管理とコストダウンは不可欠だと思っています。
今後、情報収集・宇宙科学需要から、年平均3機打ち上げの官需があり、民間・海外からの追加受注を考えますと、少なくとも年4機打ち上げ体制の構築が必要だと思われます。

従ってロケット製造だけでなく、打ち上げも民営化して業務移管する方向でロケットビジネスの改革が進められている途上となっています。
今後ともJAXA主導で、ロケット製造・打ち上げシステムの仕様改良を行って行く方向ですので、官民の連携を上手く生かして行ければ良いなと思っています。

1969年に設立された種子島宇宙センターは、総面積約970万平方メートルにもおよぶ日本最大の宇宙開発施設です。種子島東南端の海岸線に面しており、世界一美しいといわれているロケット打ち上げ射場です。
ロケットの組み立てから打ち上げまで、そして衛星の最終チェックからロケットへの搭載までを行っており、我が国のロケットや人工衛星の打ち上げを担う施設です。
施設内には、小型ロケット打ち上げ用の「竹崎射場」、日本の主力ロケットであるH-IIAロケット打ち上げを中心とする「大崎射場」があり、その北方には「増田宇宙通信所」「野木レーダ局」、西方に「宇宙ヶ丘レーダステーション」「光学観測所」などの試験設備が整備されています。
また、液体ロケットエンジンおよび固体ロケットの地上燃焼試験等を行う開発関連設備も備えています。

日曜日, 3月 11, 2007

機関設計OB会-現代技術の中核なのに

機関とは駆動機エンジンのことで、外燃機関と内燃機関に大別される。

外燃機関は、エンジン内を流れる作動流体が外部加熱器にて燃料熱で温められて高温高圧のガスとして流入し、動力を発生した後、外部環境によって冷却されて初期状態に戻って、再び循環サイクル流体となる。
代表的なものとしては水/水蒸気を作動流体とする蒸気タービンがあり、加熱器はボイラーと呼ばれて、火力発電所、原子力発電所に多く用いられている。
郷愁を誘う蒸気機関車は、往復動の蒸気エンジンで、これで産業革命が始まった歴史的な外燃機関でもある。
その他、近頃環境対策に良いとされ、宇宙空間にても採用されているスターリング・エンジンもこの範疇に入る機種である。

一方、内燃機関は、大気を吸い込んで高圧状態としてから、燃料熱で直接温められて高温高圧のガスとして流入させ、動力を発生した後は、大気中に排出され、循環することは無い。
自動車用ガソリンエンジン、トラック用も多いディーゼルエンジンが、代表的なものであり、航空機用のジェットエンジン/ファンエンジンもこの範疇に入り、近頃はガスタービン火力発電所も従来型火力を駆逐する情勢で、この世の中の駆動機として用途が極めて広い。


1960年代まで、日本の造船業での主力エンジンであった蒸気タービンは、残念ながら熱効率の観点からディーゼルエンジンに取って替わられ、その設計・製造部門は廃止となってしまっている。
其処から派生発展した航空機用ジェットエンジンが主力機種となっているが、陸舶用ガスタービンはジェットエンジンの下部組織として編入されエンジン製造工場を持てなくなっているのは寂しい。今でも現代技術の中核として考えられ、重工他社の後塵を拝しているのは悔しい限りだ。
機関設計OB会は、長年、江東区豊洲地区で外燃機関と内燃機関設計・製造を担当したOBの集いとなっていて、日本のエンジン技術をリードした猛者が多い。
従って、独自のエンジン製造工場を持てないでいる現在の会社状況を考えると、切磋扼腕するOBが多いのも頷ける。
機関設計2007

重工各社は、1960年代とは異なり工学系学生の人気ランキングからも外れつつあり、有能な後継者が育たないと言われているのも、世相が変化しているとは言え、先人としてはとても残念だ。

しかし世の中、全業種で「全てマニュアル通り」が会社方針となり、技術裏付けが希薄なコストダウンが主流、損傷対策・事故対策は後手に回ったことで、ガスストーブ・湯沸かし器の中毒事故等が頻発していると思われるのは、結局何か大切なものを失っていることなのだ。

OB会で先輩後輩と話をしつつ、在籍した会社の、延いては日本の技術レベルの低下を、ひしひしと感じざるを得なかったのが現実でした。

火曜日, 2月 27, 2007

風力発電 と国立公園−開発か自然保護か

開発か自然保護かは何時も論議される問題ですが、環境保全を得つつ発電すると言われる風力発電もその埒外では無い様です。
極端な開発も困りますが、極端な自然保護にも付いて行けないものがあります。
Yes or Noの結論を簡単に着けるだけで無く、何とか双方で妥協の出来る次善の方法を探って行く必要がありそうです。

朝日新聞の「天声人語」に次の様に書かれています。

国立・国定公園でも風力発電施設を設けやすくする様な基準を作って欲しいと、推進自治団体や発電事業者の団体が政府に要望した。
環境省の検討会では、安定して強い風が得られると要望のあった山の尾根への建設を、景観が損なうとして厳しく規制する方針と言う。
光や水や風の活用は大事だし、更に広げて行きたい。寧ろ、前向きに考えて、よくよく悩んだ上で折り合いをつけて貰いたい。風は、消えることも減ることも無いのだから。


従来は風の強い地域で、僻地や離島での発電確保を目的とした風力発電も東京湾地区にも設置される様になりました。
化石燃料も核燃料も使いませんので、CO2削減に最適の様ですが、発電容量が極めて小さく設置コストが高価である為、CO2削減の切り札と考えるには無理があります。
政策的な新エネルギー奨励助成が外されますと、従来の火力発電に較べて発電コストが極めて高く、それらと競合出来なくなり経営的には成り立ちません。
種々の評価と論議が必要でしょうが、送電コストが高くなってしまう僻地や離島での発電が、風力発電の生かされる道だと考えています。

経済産業省資源エネルギー庁HPには次の様に紹介されています。

風力エネルギーは、風向・風速の変動により安定したエネルギー供給の難しさはあるものの、潜在的には資源が広範に賦存し、無尽蔵な純国産のエネルギーである。
経済産業省では、1976〜2000年までサンシャイン計画において風力発電システムの技術開発、1981〜1986年度まで三宅島で100kW級風力発電プラントの研究、1990〜1998年度まで大型発電システムの技術開発、1999年度から離島用風力発電システム等の技術開発を実施している。
我が国の風力発電の導入実績は、2001年度で260基超、出力約14万kWとなっている。これまで、そのほとんどは電力会社、地方公共団体、国等が試験研究用あるいはデモンストレーションとして設置したものであったが1992年の電力会社による余剰電力購入制度及び1993年の系統連系技術要件ガイドラインの整備により、近年、発電電力を電力会社に売ることが可能となったため、売電事業を目的として設置されたものも増加している。
 また、世界第1位のドイツにおける風力発電の導入実績は約610万kW、第2位のアメリカは約260万kWで、我が国に比して相当大きな導入量となっており、一層の導入拡大を目指した政策的支援が行われている。 
 我が国における風力発電の導入における最大の課題は、普及が進んでいる欧米諸国に比べ大気の乱れが大きく、設備利用率等に起因する高い発電コストである。1995年度から「風力発電フィールドテスト事業」を創設し、風力発電の有望地域において風況精査を実施するとともに風力発電設備を設置・運転を行い、データ収集等の調査研究事業を実施している。
又、1997年度から地方公共団体に対する支援制度として「地域新エネルギー導入促進事業」及び民間事業者に対する支援制度として「新エネルギー事業者支援対策事業」により導入経費に対する補助を行っている。

レイノルズ数-工学無次元数の代表格

工学の世界では、実際の現象を実験室規模でシミュレーションして再現しながら解析し、改良に適用することが重要であるとされている。

それぞれの解析目的で種々提案されていて、代表例として次の様な無次元数がある。

レイノルズ数(流体における慣性と粘性の比率。流体解析に必須)
マッハ数(物体の速度と音速の比率。高速流体解析に必須)
プラントル数(熱輸送と運動量輸送の比率。熱流体解析に必須)
ヌセルト数(熱伝達と熱伝導の比率。伝熱解析に必須)
ビオ数(熱伝達と固体側熱伝導の比率。伝熱解析に必須)
レーリー数(温度勾配を無次元化した量。熱対流解析に必須)
グラスホフ数(自然対流を表す無次元数。熱対流解析に必須)
リチャードソン数(密度が層状変化する流れ。気象力学に必須)

逆に複数の現象比較を行う際には、スケールの違いなどの影響を除くために、計測結果などを無次元化して、無次元数で比較を行うことが妥当と考えられる。


流体力学の分野で多く用いられるレイノルズ(Re)数は、代表長さ[長さの次元]、代表速度[速さの次元]、動粘性係数[粘性/密度の次元]の値を用いて求められ、流れ場の状態を表す無次元数となり、応用性が広い無次元数の代表格とされている。

MoodyFriction
上記のグラフは円管内流れ場におけるRe数と流体摩擦損失無次元数との関係を表したもので、上下水の水道管、ガス管等の大きさ設定の妥当性に用いられる。
即ち、水、各種溶液等の液琉体、空気、各種ガス等のガス流体を流送する場合に、適切な口径と摩擦抵抗に見合うポンプ・圧縮機の所要動力が設定されるのである。

レイノルズ(Re)数は、交通機関媒体を設計するにも有用な無次元数で、設計には欠かせないものとなっている。
例えば、航空機・自動車を設計する際に、実際の媒体と模型について、このレイノルズ数が同じであれば、媒体周りの空気の流れは相似となりサイズは異なっても本質的には同じ現象と考えることが出来るのである。
乗用車であれば大きさは数メートルなので、実際媒体で風洞試験を行い、流体抵抗を実測することが出来そうに思われる。
しかしながら、航空機となると数十から百mを超える大きさになるので、小さな模型を用いてレイノルズ(Re)数が同一となる様に試験して、設計是非を検討することが必須になる。結果は所要エンジン動力大きさに直結するので、極めて重要な試験解析となるのである。
近年コンピュータによるCFD解析で解析出来そうに思われるのだが、Re数が異なればその解析は用を為さないので、どうしてもRe数を同一にしたシミュレーション風洞試験を実施しなければならない。

小さな模型試験で、レイノルズ(Re)数を合わせるには、風洞の高圧化・極低温化など種々方法が考えられるが、いずれも詳細な工学検討と多大な設備投資が必要となる。
この実際動向については種々あるが、多大な設備投資が必要で、国家もしくは多国間プロジェクトで推進されている例が多い。

この件については、いずれ又、次の機会を得て論じたいと思っています。

木曜日, 1月 04, 2007

日中2000年の不理解

創刊朝日新書の一つで、横帯には「何故日本人の心は隣人に伝わらない-卓越の日本文化論」となっていますので、購入し読了しました。この手のタイトル本には、私を含めて島国の住人である日本人は弱い様です。

納得できる論点もありましたが、多様性国家の代表格である中国を儒教国家と単純に位置づけ、日本を感性主体の無宗教国家と位置づける拙速さが目立ち、結論的には性急で固定観念に満ちた漢民族から見た比較文化論だと思われます。

日中2000年の不理解-朝日新書(王敏 著)

小著は日本人・日本文化論の範疇に属するかも知れない。日本文化を感性文化と特色付けて輪郭だけを描くことに主眼をおいた。そして、この宿命的な感性文化のマイナスを克服して、日本は国際化を図らなければならない。
一向に未熟から抜け出られない愚考であることを正直に告白し、多くの方のご叱正とご教示を受けたいと願っている。


「日本は如何なる文化・宗教も受け入れるが、その過程で日本式に変容させてしまう」と喝破したことで知られていますのは、大正末期の芥川の小編「朱儒の言葉」ですが、それを念頭に散文的に敷衍させただけの様にみえて仕方がありません。

「キリスト教、イスラム教、儒教文化圏の人々から見て、日本文化は完全に異文化である」と指摘するに至っては、漢民族を普遍的とした中華思想を発露した傲慢さが感じられるとしか言い様がありません。

山本七平氏がイザヤ・ペンダサンのペンネームで発表した「日本人とユダヤ人」と比べて、視点の低さは大きいものと感じざるを得ないものがあります。

曰く「互いに交われば相互理解が出来ると単純に考える日本人が余りに多い。お互いに肩を触れ合い話す機会は益々多くなり、日常的なことなる。だが、それが相互理解に通ずる等と絶対に安直に考えてはならない。もしそうなら、ユダヤ人はもう二千年も、西欧人と肩を触れ合って生きているのである。」

要は乱暴な国家論の観点から文化を論じるのでなく、また排他的宗教的見地でもなく、個人の主体性が真価を問われる時代に来ていると言うのが妥当な見方だと思っています。

その点からみると、この新書は旧態依然としていて、飽き足らないものがあります。