土曜日, 12月 13, 2008

自負と偏見のイギリス文化-J・オースティンの世界

イギリスではオースティンの作品は「イギリス的ユーモア」があることで、200年に亘って人気があり、学校の教科書にも採用されているとのことです。尤も「学校で読まされる、上品で面白みの無い作家」との範疇になるのだそうですが・・
しかし、1980年代にテレビドラマ化されると共に、魅力再発見となり、空前のオースティン・ブームが続いているとも言うのですが、実感は湧きません。

自負と偏見のイギリス文化(J・オースティンの世界)-岩波新書1149(新井潤美 著)

ジェイン・オースティンは1775年生まれ、6点の小説を出版し1817年にアディソン病と言う難病に冒されて亡くなった女性作家。その頃は摂政(Regency)時代で、寛容でダイナミックな雰囲気に溢れ、自由な社会であった様です。

イギリスでは未だ階級制度が厳然として残っているのですが、彼女は貴族階級でも無く、庶民でもない「ジェントリー」と呼ばれる階級(現在ではアッパー・ミドル・クラス)に属していて、その階級内でのゴシック小説へのパロディ作品を書き続けたのです。
ゴシック小説とは、恋愛・結婚をテーマとし、ヒーローとめでたく結ばれる前に、必ず悪党にさらわれ、何処かに幽閉されて、様々な危険を経て、ヒーローに助けられてハッピーエンドとなる小説を言うのですから現実味の無いもので、ジェイン・オースティンのパロディは時宜を得たものであったのでしょう。

現在、再発見されたジェイン・オースティンを熱狂的に支持する人達は、「ジェイトナイト」(ジェインをもじった言葉で、日本語で言えばジェイン・オタクだろうか?)と呼ばれ、高学歴で、洗練されており、特別な感性を持つと自認する人々であるらしい。

著者の新井潤美(あらい えみ)女史もイギリス生活を経て、「ジェイトナイト」を自認している様ですが、オタクの通例として主観的な自己陶酔が過ぎて、客観的な意味で「ゲーテ、セルバンテスと並び、シェイクスピア、モリエールの様な深み、繊細さを持って人物を描ける作家」とも言われるジェイン・オースティンの良さが伝わって来ません。

木曜日, 12月 11, 2008

銀河系中心のブラックホール

欧州南天天文台が提供したと言う画像を見てもブラックホールが存在しているとも思えませんが、16年に亘る恒星の動きを追跡研究したデータを処理した結果の結論らしく、格段に進歩したデータ処理技術の成果と考えられます。

Black Hole

近赤外線で観測した銀河系の中心部。見えない超巨大ブラックホールがあり、周囲の星の動きを長期観測した結果、質量は太陽の約400万倍と分かった。ブラックホールの解明が進むと期待される。

これだけでは良く分かりませんので、インターネット英文版を覗いてみますと、次の様に記載されていました。

The 16-year study involved tracking the movement of 28 stars at the center of the Milky Way using telescopes at the European Southern Observatory in Chile.
Using the data collected, astronomers were able to calculate important properties about the black hole -- called Sagittarius A* -- such as its size and mass.
欧州南天天文台チリ観測所に於いて、16年に亘って銀河系中心部にある28恒星の動きを追跡研究して来た。蓄積されたデータを解析し、「サジタリアスA」と呼ばれるブラックホールの大きさ・質量等の重要な特性を計算出来ることとなった。

Professor Reinhard Genzel, who led the study at the Bavaria-based Max-Planck Institute for Extraterrestrial Physics, said the data collected proved the existence of the black hole "beyond any reasonable doubt."
ドイツのマックス・プランク研究所での地球外物理学を主導する、ラインハルト・ゲンツェル教授は「集められたデータは、如何なる疑念も無く、ブラックホールの存在を証明した」と述べた。

"Undoubtedly the most spectacular aspect of our long term study is that it has delivered what is now considered to be the best empirical evidence that super-massive black holes do really exist," said Genzel. The black hole had a central mass concentration of four million solar masses, he added.
ゲンツェル教授は「超巨大なブラックホールが存在すると言うことが、最善の帰納的な証拠として考えられる」、又「その質量は太陽の400万倍」と付け加えた。

The study also enabled astronomers to calculate the distance of the earth from the center of the galaxy, now measured to be 27,000 light-years, and enhanced by six times the accuracy to which they were able to measure the positions of stars -- the equivalent of seeing a one euro coin from a distance of 10,000 kilometers.
この研究で、地球から銀河系中心部までの距離は2万7000光年と計算することを可能とし、その精度は1万km先から1ユーロコインを見極める程度に達している。

ブラックホールをウィキペディアで調べますと、下記解説がありました。

現在、ブラックホール自体を直接観測することはまだ成功していないが、周囲の物質の運動やブラックホールに吸い込まれていく物質が出すX線や宇宙ジェットから、その存在が信じられている。
銀河の中心には、太陽質量の10*E6~10*E10倍程度の巨大ブラックホール (super-massive black hole) が存在すると考えられており、超新星爆発後は、太陽質量の10倍~50倍のブラックホールが形成すると考えられている。最近、両者の中間の領域(太陽質量の10*E3程度)のブラックホールの存在をうかがわせる観測結果も報告されており、中間質量ブラックホール (intermediate mass black hole; IMBH) と呼ばれている。


今回計算確認されたブラックホールは太陽換算10*E6倍質量ですから、将に探し続けていた巨大ブラックホールなのでしょうか?

火曜日, 12月 09, 2008

写真版 東京大空襲の記録-新潮社


著者である早乙女勝元氏は岩波新書版「東京大空襲」のベストセラーを出したことで知られていますし、ご存じの方も多いと思います。

唯、この本では記載文よりも掲載された写真が圧倒的に事実を知らせていると思いますので、その写真家のことを「あとがき解説」で松浦総三氏が紹介して興味深いので転載いたします。

石川光陽氏は警視庁のカメラマンで上司の命令で東京空襲や戦災の写真を撮った人である。戦中は報道管制は厳重を極め、戦災地をカメラを持って歩いただけで逮捕された。そんな中で職務で撮った石川さんの写真は極めて貴重であった。この写真は、戦後占領軍の知る所となりGHQは提出命令を出した。石川さんはこの命令を拒否した剛直の士である。この写真の迫力は、第二次世界大戦の中でも類を見ないものである。これらの写真が、戦争の悲惨さを、戦争を知らない世代に知らせる大きな武器となり、空襲・戦災記録運動に大変役立ったことは言うまでもない。

東京大空襲は、大型爆撃機による無差別の都市爆撃であり、皆殺し作戦である。その1回目はナチスによるゲルニカ爆撃であり、その後日本軍による重慶爆撃、連合軍によるハンブルク爆撃、米軍による東京空襲、広島・長崎原爆投下と続きました。
大戦後になっても、朝鮮戦争ナパーム弾攻撃、ベトナム戦争枯れ葉作戦とエスカレートして行くばかりです。
私は、原爆投下、東京空襲の様なことが2度と起こってはならないと思い、その為には皇軍に虐殺された南京市民と、連帯の手を握りたいと考えている。(1987年6月)


2001年の同時多発テロ事件に続く、アフガン戦争、今回のイラク戦争でも劣化ウラン弾、バンカーバスター、デイジーカッター等の殺戮兵器などが使用されました。

米政府の報道管制が徹底しているのか今の所被害状況が明らかになっていませんが、ベトナム戦争の悲惨さが戦後暫く経って明らかになったと同様に、後遺症も含めて将来公開されることがあるだろうと思っています。

月曜日, 12月 08, 2008

量子暗号通信システム(Quantum Cryptography)

第2回国際量子暗号会議(Quantum Cryptography 2008)が2008年12月1~2日に開催され、NHKBS1英語ニュースで報道されていました。

量子力学の基本原理とされる「ハイゼンベルグの不確定性原理」を利用する技術と言うから驚きです。
「ハイゼンベルグ(Heisenberg)の不確定性原理(Uncertainty Principle)」とは「或る素粒子物質の二つの状態量は同時には正確な測定は出来ず、誤差は避けようが無い」と言う原理で、敷衍すると「量子の或る状態を測定すると量子は必ず別の状態に変化する」と言うことになります。
20世紀物理学の巨星アインシュタイン(Einstein)は、「決まってはいるが人間に分からないだけ、神はサイコロを振らない」と反論し、忌み嫌った理論でもありました。

公開鍵暗号方式は不特定多数の相手と暗号通信を行える技術として普及している。しかし、計算量によって暗号鍵が保証されるパラダイムであり、高性能コンピュータの進歩によっては安全性が崩される可能性もある。
絶対に安全な暗号化技術として「量子暗号」と呼ばれる技術が研究されている。それは「ハイゼンベルグの不確定性原理」に基づいて盗聴の有無を必ず確認することで暗号鍵の安全性が保証される。即ち、量子データ通信中にそのデータを盗み見ようとすると、その量子の状態が変化するためデータが盗聴されたかを認識できる仕組みだ。
一般的な光通信では沢山の光子をまとめて「0」か「1」の情報を符号化させるが、量子通信では光子1個に「0」か「1」の情報を与えるため、光子の変化が厳密に判断できる。

87km長距離通信に成功する等、完成度は高く、光ファイバを活用することが可能。現代暗号と組み合わせたシステムを構築したことにより、実際に製品として納入することも可能だと言う。


しかし、量子暗号通信は通信速度が非常に遅く7.2bpsにしか達しない等、課題克服とはなっていません。
兎に角、素粒子物理学でしか利用出来ないと思われた「ハイゼンベルグの不確定性原理」の工学への適用と言うその進歩には目を見張るものがありますが、通信技術の中核として光子と言う素粒子を問題にするですから、これは必然の方向だったのでしょうか?