日曜日, 11月 24, 2013

田中優子女史の「江戸を歩く」

江戸の研究家としても知られる著者が、写真家と共に東京に残る江戸の名残を紹介したものでありますが、東京と言う近代に押しつぶされた江戸のうめき声が聞こえる様で、一読に値するものと思われます。 私は東京を見て来て、所謂観光地ではなく、あまり人の行かない密やかな処に楽天地があるのだと知った。何時までもいたくなる良い場所を探したいと言う気持ちにさせてくれる。 こうなると東京も満更ではないのだ。 江戸は周到に作られた都市であったが、閉じられた都市ではなかった。人はここを出ては入り、入っては出て、自らを新たにした。 私にとって東京に暮らすと言うことは、その様な人々に再び出会うことである。 湯島界隈では、次の様に解説していて現在に警鐘を鳴らしているにも思われます。 江戸時代の学問のエッセンスは論語に言う「故きを温めて新しきを知れば、以て師為るべし」で、古典を学び、歴史を学び、深く理解していることである。 しかしそれだけでは人を指導することが出来ない。「学びて思わざれば則ち罔し、思ひて学ざれば則ち殆し」-これも学問の神髄で、知識をため込んでも思想がなければ何にもならない。 両方なければ知性と言えないのである。人になるとはどう言うことなのか。哲学を欠いた学問は学問とは言えない。 著者の田中優子女史は、法政大学総長に選出されることが報じられていますが、人格識見は卓越しているのだろうと思われます。 法政大学の総長に同大社会学部長の田中優子氏(61)を選んだと発表、来月4日の理事会で正式に決める。女性総長は同大で初めて。 東大を含む「東京六大学」でも、総長、学長に女性が就任するのは初めてとなる。 田中氏は同大文学部卒で、日本近世の文化を研究。同大第一教養部教授などを経て2012年から現職。2009~11年度に芸術選奨選考審査員。

水曜日, 4月 03, 2013

コロニアリズムと文化財-荒井信一著

近年、19~20世紀に於ける植民地からの文化財持ち出しの返還運動、植民地主義(コロニアリズム)の清算が盛んになっていて、文化財ナショナリズムがエスカレートしています。


文化財に関しては1970年のユネスコ条約が根幹な規定ではありますが、1980年代までは「国際主義」と「ナショナリズム」と言う2方向の考え方があり、「危険な状態の遺物を安全な場所に輸出する方が原産国で粗末にされ壊されるより望ましい」とし、他方では「不適切な管理による文化財の破損は残念だが輸出による喪失よりも益し」とするのだが、私はバーミヤンの大仏爆破等を考えると「国際主義」に与したいのです。



永く植民地支配責任を究明しつつ、衆議院外務委員会で文化財に関する日韓協定の審議に参加した著者が、広く私的見解を発信すべく、結果として公的発言を問うたものです。



コロニアリズムと文化財-荒井信一著(岩波新書1376)



1970年のユネスコ条約は、文化財を「宗教的理由によるかどうかを問わず、各国が考古学上、先史学上、歴史上、文学上、美術上又は科学上重要なものとして特に指定した物件」と定義し、文化財の不法な輸出入や所蔵権譲渡を取り締まることを目的としている。



植民地支配の清算に直接拘わるのは「外国による国土占領に直接又は間接に起因する強制的な輸出及び所有権譲渡は不法であると見做す」と規定するのだが、文化財の返還・回復は締結国が外交機関を通じて要請するものとするだけなのである。

そこで、1995年にユニドロワ(UNIDROIT)条約「盗取され又は不法輸出された文化財に関する条約」として、「善意の第3者として所有していた個人・団体に対する補償をどうするべきか法的基準」を明らかにし、50年間の時効を定めつつ原産国への復帰を容易にした。



最近の返還交渉では、原産国での劣悪な環境は著しい改善が見られ、公共物として大きな注意が払われるようになり、文化財返還とポストコロニアルな和解の緊密な関係を示唆するものとして注目しなければならない。



大英博物館でエルジンマーブル、ロゼッタストーンを、ルーブル美術館でミロのヴィーナスを、シカゴ美術館で源氏物語絵巻を、ボストン美術館で種々日本美術品を、見るにつけ文化財は人類共有のもので過去の経緯は兎に角、大事に維持保管されて展示されることで「国際主義」で良いのではと思っています。

水曜日, 1月 30, 2013

核融合研究炉JT-60SAの組立作業開始

国際熱核融合実験炉(ITER)の建設候補地としては、当初米国サンディエゴ近傍、日本苫小牧、青森県六ヶ所村、仏国カダラッシュが挙げられていたが、2005年6月カダラッシュに建設することが決定された。 現在最も研究が進んでいるのは、磁気閉じ込め方式の一種であるトカマク型であり、ITERでもこの方式を用いられる。 しかし、核融合は自然界恒星で起きているD-D反応では10億度プラズマを必要とし実用が難しいとされ、採用されない。 D (重水素)+ D(重水素)→He (ヘリウム)+エネルギー 反応条件が緩やかなD-T反応は1億度程度の高温で核融合反応が起きるので、実用に適するとして採用されることになっている。 D(重水素) + T(三重水素)→He(ヘリウム) + n(中性子)+エネルギー 三重水素(トリチウム)は放射性元素で放射能の危険性は無視できないし、D-T反応では高速中性子が発生し炉壁などの放射化への問題解決が求められる。 又、トカマク型にも弱点があり、核融合の際に発生する中性子が炉壁などを傷つけるためにその構成材質の変質・耐久力が問題となる。 ヘリウム冷凍で極低温となったニオブ合金が超電導状態となるので、それで強力磁場を形成し1億度のプラズマをトカマク炉内に浮かすのであるが、未だ電気を取り出す程持続出来てはおらず、又ヘリウム冷凍システム故障の場合における安全な熱解放(Quench)システムも未だ万全では無い。 研究炉(JT-60SA)、実験炉(ITER)を経て、発電実証炉に至るのであるが、2050年迄に実現出来るか否か、未だ見通しは立っていないのが現状だろうと思っている。 日本原子力開発機構那珂研究所で1月28日、核融合技術の研究炉JT-60SAの組立作業が始まった。日米欧7ヶ国が平成19年から共同で進めている国際熱核融合実験炉(ITER)計画の一環で、平成31年3月の実験開始を目指す。 ITER計画は、重水素やトリチウム等からヘリウム原子核になる反応を地上で起こし、発電に利用する「核融合発電」の実用化を目指す国際プロジェクト。 JT-60SAは、フランスで建設中のITERの1/2スケールで、直径約13.5m、高さ15.5m。ITERに先行して実験を行い、結果をITERや将来の発電炉に反映させる。 日欧が建設費計435億円を出し、各国で製造したパーツを同研究所で組み立てる。