火曜日, 5月 10, 2016

考えすぎない-当世の処世訓は思考停止を生む懸念

啓文堂書店2016雑学文庫大賞第1位と言うことで、本多時生氏著「考えすぎない」を読んでみました。

著者は「考えすぎないと言うのは、自分の限られた時間とエネルギーを、問題解決に使うのと、幸せになる為に使うのと、どちらが良いかと言う選択であります」と言い、当世の処世訓として提示するのですが、全く賛成し兼ねるのです。
軽すぎる自分の思いを掘り下げることもなく、全て現状肯定することで思考停止を助長するのではないかと懸念するからなのです。

処世訓としては、古くから貝原益軒の「養生訓」が知られていますが、自己節制と努力を要求していますが、この本にはその様な節制は全くないのです。
著者が新興宗教の宣伝塔では無いかと思いつつ、検索してみますと「一切宗教とは関係ありません」との記述もありましたが、一切を信用すると言う宗教的見地無しに、これほど論拠に欠け楽観的見方になれるのか、大いに疑問を感じざるを得ません。

やはり「人間は考える葦」であり、小林秀雄の言う如く「考えると言うこと」が必須要件で、ショーペンハウエルの託宣通り「読書は他人に考えて貰うことである」と、その論実をフィードバックして自己形成に努めることが基本だと思うのです。

何故、啓文堂と言う書店が、このような論実の軽い書籍を雑学文庫大賞第1位として大々的に宣伝しているのか疑問ですし、出版不況を勝ち抜き若い世代の読書離れを止める為には仕方が無いと判断したのかも知れませんが、よく言われる出版不況の闇の深さを感じざるを得ませんでした。