金曜日, 6月 05, 2015

加藤周一を記憶する-「戦後レジームからの脱却」へのアンチテーゼ

戦後を代表する知識人である加藤周一氏は、文化、芸術、政治について、時には見識の転回を重ねつつ啓蒙的活動をして来た稀有の存在で、その見識は近頃の「反知性主義」による安易な右翼的傾向に棹差すアンチテーゼとして見直す必要があるのでしょう。

文化的な解釈では、1970年代、例えば「もののあはれ」を表すとされた「源氏物語」は日本文学の正典中の正典とされていますが、仏教の影響を考察し、時間意識を読み取り、「源氏物語が我々に啓示する人間の現実とは、運命にあらず、無常にあらず、時の流れと言う日常的で根本的な人間の条件である」と新解釈を披露します。

政治的な解釈では、既に1980年代に次のように喝破しています。 「国民の生命財産を守るだけでなく、基本的人権、そして権力の民主的統御を守ることが求められ、その為には超大国との緊張関係を緩和する以外に有効な手段はない。
日本の軍国化が嘗てそうであった様に将来も又日本国民に不幸をもたらすだろう。殊に軍国化が、超大国間の争いの先棒を担ぐ形で行われる時はなお更である。 昨日は遠くて今日近きものは、教科書の書き直し強制、首相の靖国公式参拝、憲法9条空文化ですし、今日遠くて明日近きものは、自衛隊核武装、国際的な海外派兵、愛国の為の徴兵制度、平和の名目での局地戦となります。」

現状は、教科書検定の書き直し強制、憲法9条空文化、国際的な海外派兵、平和の名目での局地戦等が混在して到来しつつあるのでしょう!

著者は本書につき、下記のようにコメントしています。

加藤周一は、状況との緊張関係をもち、絶えず自らの知をつくり替えていった。「戦後思想」から出発し、フランス留学後の「雑種文化」によって「転回」をとげ、その後、60年安保を経てさらなる「転回」をなし、パリ五月革命、中国文化大革命など「68年」の状況に向き合う。そして晩年の「九条の会」参加に至るまで、5つの局面を経ている。 こうした加藤の「転回の軌跡を明らかにすることは、その時々の「知」の検証―「戦後」の内在的な検証となり、「戦後知」の新たな形を示す作業となる。更に安易になされている「戦後レジームからの脱却」への批判となるであろう。 「啓蒙の知」は現状への処方となり得るはずである。「反知性主義」への対抗として、啓蒙主義の放棄ではなく、啓蒙主義の蜂起へと至るものとして。