火曜日, 12月 05, 2006

岩波新書の歴史-深刻な出版不況の中で

深刻な出版不況の中で、売れ筋の新書版の巨人「岩波新書」新赤版が1000冊を超えたらしい。
1970年代迄の青版では「教養・向学」と言う観点から出版されていたのですが、新赤版では「ハウ・ツー」ものが多くなり、極めて通俗的になって来たと思っています。

岩波新書の歴史-岩波新書(鹿野政直 著)

岩波新書は、「新書」と言う体裁の出版物では元祖の位置を占め、その歴史は半世紀を越えた。それを総括すると、次の様になる。

赤版  1938~1946年    101冊
青版  1949~1977年   1000冊
黄版  1977~1987年    396冊
新赤版 1988~2006年   1008冊

日本現代史を専攻すると言う立場から、岩波新書と言う窓を通して戦中・戦後の思想史を眺めようとしたことになるかも知れない。こうした目標に向けて序章に「新書の誕生」を置き、1~4章は時期ごとの特徴づけを試みて、この本を構成した。


著者は、出版不況・読書離れについては、編集長レポートを引用し「現代の読者は、テレビ・メディアを中心として形成された圧倒的なメディア支配の下で、書物と言うものを処遇している」、そして「大量で画一された情報の社会的強制によって、もはや“自分の人生の行き着く先が分かってしまっている”との運命論的現実認識が、若者に読書離れをもたらせている」と分析していますが、将に正論で、「近頃のテレビ・メディアは安易なお仕着せエンタメ放送が殆んどを占め、自分で考えない様に目隠し誘導している」と思わざるを得ません。

「出版不況」とインターネット検索すると、次の様な記事がありましたが、読者だけで無く出版者もビジネス本位となり、使命感を失っている様です。

書籍・雑誌の販売総額は今や2兆5千億円と低迷し、街中の本屋がどんどん少なくなり、経営基盤が脆弱な出版社の破産も多いらしい。
金額だけが尺度かもしれないが、「本が危ない」のは何も売上げだけではない。出版界では柳の下にドジョウが30匹までいると言われる。編集者はベストセラーの追従が企画だと思い,類似書を本屋の店頭にうずたかく積み上げている。読者はベストセラーを図書館に予約して競って借りるが,数年後ブックオフなどの新古書店の店頭に1冊百円で並んでいても誰も手にとろうともしない。雑誌は読者ではなく広告主のために創刊され,広告収入に頼った雑誌が返品率を押し上げている。 既刊本が売れなければ勢い新刊依存になる。昨年の新刊は7万点に近づき過去最高となった。専門書にも売れ筋があり,売り上げ重視で,安易に寿命の短い新刊を作った自分の反省もある。つまり出版不況は売れないことだけが問題なのではない。類似の企画,雑な編集,安易な新雑誌の創刊。どれもこれも出版界の精神的不況の結果である。貧すれば鈍する。だから本が危ないのである。

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