木曜日, 10月 06, 2011

通貨を知れば世界が読める-PHP新書

著者の浜矩子(はま のりこ)女史は、度々TVに出演しているが、なかなか説得力のある解説者だとコメントを傾聴しています。 一橋大学は、哲学的な方向付けよりも、実務的な経済学者を輩出していることで知られていますが、彼女もそうした基本方針で育てられた人材の一人の様に思われます。 基軸通貨の米ドルが危うくなり、後継とも目された欧州ユーロも先行きが不安視される中、著者の定義は納得出来るものがあります。 「その国にとって良いことが世界にとっても良いことであると言う関係が成り立っている国の通貨」が、国際的基軸通貨と呼ぶに価する。 大英帝国が世界の富を一手に握った「パックス・ブリタニカ」の時代のポンドがそうであり、第2次世界大戦後の「パックス・アメリカーナ」の時代のドルもそうであった。 それを踏まえた現状分析は、甚だ厳しいものがあります。 2000年代も後半になり、通貨を取り巻く状況を大きく変えた二つの「まさか」が起きた。2008年のリーマン・ショック、及び2009年のギリシャ金融危機である。 前者は、既に実質的には基軸通貨の座を降りたにも拘わらず、それを認めようとしないアメリカへの退場勧告とも言うべきものであり、後者は、ドルに替る基軸通貨として期待されたユーロが、その役割を果たせないこと、更に、その存在すら危ぶまれるものだと言うことを示す警戒シグナルであった。 円高圧力の強い日本の現状分析には、円を裏基軸通貨として展開するのが良いとし、日本人を鼓舞させようとする意図が強い。 今回の東日本大震災で、地球的なサプライチェーンがどれだけ大きな影響を受けたかを考えても、グローバルな次元での日本の社会的責任は大きい。円が動けば世界が揺れる、日本の物作りが揺らげば世界が倒れる。成熟債権国は、自らの行動や降りかかる命運の波及効果を常に意識しておかなければいけない。 明らかに、子供じみた振る舞いとの決別の時が来ている。大人の国の大人の通貨を大人らしく管理する覚悟が求められている。 強い通貨と豊富な債権、そして知恵と工夫を用いて、如何に豊かな国を築いて行くかが問われていて、日本が前人未到の大人の世界を自力で開拓することは、日本型ジャスミン革命となるのではないか。 大きな政治的課題であるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)には、基本的には反対の様で、21世紀食糧自力調達が問われている現状を踏まえてかは不明ですが、納得出来るものがあります。 TPPは、環太平洋の国々が協定を結んで自由貿易圏を作ろうと言うものであるが、要は特定地域の囲い込み政策で、いわば集団的鎖国主義である。基本的に閉鎖主義的な対応である。 通貨と通商の世界における自己防衛的囲い込みが、地球経済をズタズタに分断して行くのが最悪のシナリオで、其処に向かわない様に、債権大国の誠意ある大人の外交が問われる処だ。

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