日曜日, 10月 23, 2011

角栄礼賛のドキュメンタリー-日中国交正常化(中公新書)

田中角栄には金権政治のイメージがあり、その亜流たる小沢一郎もマスコミで叩かれ放題の状況にあります。 しかし、懸案の日中国交正常化を、日米安保体制と両立させ、台湾との民間交流を続けつつ、一気呵成に成し遂げた功績は、日本の国益を考えるとやはり認めなければなりません。 その際の日中共同声明は前文と9項目の本文からなり、両国にとって国情を反映した妥当な声明であると思われるのです。 本文第7項目: 日中両国の国交正常化は、第3国に対するものでない。両国のいずれも、アジア・太平洋地域に於いて覇権を求めるべきでなく、この様な覇権を確立しようとする他の如何なる国或いは国の集団による試みにも反対する。 しかしながら、近年中国の覇権主義が台頭して、その精神に悖る海洋権益拡大の動きが出て来ていることには残念な思いがしてなりません。 著者は次の様に自分の思いを述べていて、自分の論理に陶酔している感もするが、私の息子世代である若さも、その探求心故にそれなりに評価してあげたいと思うのです。 田中と大平の個性が共振する姿を外交交渉を描きつつ、あり得べき政治指導の姿を探し求めた。政治指導のあり方は、少なからず官僚の使い方に現れるもので、彼らの果たした役割も、インタビューを通じて正当に評価しようと心掛けた。 近年、政治家が官僚との対決を標榜する傾向が見られるものの、少なくとも外交に関する限り未熟な方法と言わねばなるまい。 本文第3項目: 中華人民共和国は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この中華人民共和国の立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する。 近頃、マスコミも中国政府の宣伝に乗せられて、台湾は中国の一部であることが既成事実の様な論調も目立つのだが、共同声明では、両国の主張併記で、日米安保体制にも抵触させない配慮がなされていることに、改めて確認したいと思うのです。 又、尖閣諸島については、周恩来首相は、日本が実効支配する領土について自国から発議するのは外交上得策では無いと認識し「尖閣諸島について話すのは良くない。石油が出るから問題になった」と話を打ち切ったと言う。そして、対ソ戦略を重視する百戦錬磨の周首相は、日中共同声明の調印を急ぎつつ、日本外交の不慣れさを救ったのだとの逸話が載せられているのは、日本国民として感謝・留意したいものです。 近年の中国外交部には、覇権主義が横溢して、その様な偉大なステーツマンが皆無となりました。

土曜日, 10月 15, 2011

Indignez-vousをAmazonで購入予約

著者ステファン・エッセルは93才、第2次世界大戦のレジスタンス闘士で、ユダヤ人であるにもかかわらず、イスラエルを糾弾する積極的な活動を続けている稀有な人物の様です。 世界的に若者の抗議運動が熱を帯びていますが、フランスではベストセラーとなって、若者たちのバイブルにもなっていると報じられています。 僅か20ページ程の小冊子で、この年末にも邦訳が出版されるとのことですが、フランス語の再学習を込めて、Amazonで購入予約をしました。 1 "Indignez-Vous!(憤激せよ)" Stephane Hessel; ペーパーバック; ¥ 385 2 "Time for Outrage!(怒りの時)" Charles Glass; パンフレット; ¥ 485 どうも在庫は無いらしく、入手は11月4~13日と4週間程度掛るとのことです。配送料を含めて1000円程度と考えています。 インターネットで“Indignez-vous”検索しますと、著者に対するインタビューが多数見つかりましたが、93才と言う高齢にも拘わらず、矍鑠たるものがありました。 indignez-vous--de-stephane-hessel-quand-un-ancien-resistant-parle-d_engagement ステファン・エッセルは、1917年ベルリンで生まれ、1925年にフランスに移住。両親はユダヤ人。父親はプルーストをドイツ語訳した人で、母親は画家。 1937年にフランス国籍を取得。第二次大戦でドイツ軍の捕虜になるが、脱走してロンドンのドゴール将軍の指揮下に入る。 1944年フランスの戦線に戻るが捕えられ、ドイツの強制収容所に移送される。脱走に成功するも再び逮捕、またまた列車から飛び降りて逃亡し、アメリカ軍に加わる。 戦後は国際連合事務局に入り、世界人権宣言の起草に寄与。 アルジェリア戦争当時は、アルジェリア独立運動を支持。1981年ミッテラン大統領によって、フランスの国連大使に任命される。現在、ユダヤ人であるにもかかわらず、パレスチナ人の側に立ってイスラエル商品ボイコットのキャンペーンを行うなど、積極的な活動を続けている。

木曜日, 10月 06, 2011

通貨を知れば世界が読める-PHP新書

著者の浜矩子(はま のりこ)女史は、度々TVに出演しているが、なかなか説得力のある解説者だとコメントを傾聴しています。 一橋大学は、哲学的な方向付けよりも、実務的な経済学者を輩出していることで知られていますが、彼女もそうした基本方針で育てられた人材の一人の様に思われます。 基軸通貨の米ドルが危うくなり、後継とも目された欧州ユーロも先行きが不安視される中、著者の定義は納得出来るものがあります。 「その国にとって良いことが世界にとっても良いことであると言う関係が成り立っている国の通貨」が、国際的基軸通貨と呼ぶに価する。 大英帝国が世界の富を一手に握った「パックス・ブリタニカ」の時代のポンドがそうであり、第2次世界大戦後の「パックス・アメリカーナ」の時代のドルもそうであった。 それを踏まえた現状分析は、甚だ厳しいものがあります。 2000年代も後半になり、通貨を取り巻く状況を大きく変えた二つの「まさか」が起きた。2008年のリーマン・ショック、及び2009年のギリシャ金融危機である。 前者は、既に実質的には基軸通貨の座を降りたにも拘わらず、それを認めようとしないアメリカへの退場勧告とも言うべきものであり、後者は、ドルに替る基軸通貨として期待されたユーロが、その役割を果たせないこと、更に、その存在すら危ぶまれるものだと言うことを示す警戒シグナルであった。 円高圧力の強い日本の現状分析には、円を裏基軸通貨として展開するのが良いとし、日本人を鼓舞させようとする意図が強い。 今回の東日本大震災で、地球的なサプライチェーンがどれだけ大きな影響を受けたかを考えても、グローバルな次元での日本の社会的責任は大きい。円が動けば世界が揺れる、日本の物作りが揺らげば世界が倒れる。成熟債権国は、自らの行動や降りかかる命運の波及効果を常に意識しておかなければいけない。 明らかに、子供じみた振る舞いとの決別の時が来ている。大人の国の大人の通貨を大人らしく管理する覚悟が求められている。 強い通貨と豊富な債権、そして知恵と工夫を用いて、如何に豊かな国を築いて行くかが問われていて、日本が前人未到の大人の世界を自力で開拓することは、日本型ジャスミン革命となるのではないか。 大きな政治的課題であるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)には、基本的には反対の様で、21世紀食糧自力調達が問われている現状を踏まえてかは不明ですが、納得出来るものがあります。 TPPは、環太平洋の国々が協定を結んで自由貿易圏を作ろうと言うものであるが、要は特定地域の囲い込み政策で、いわば集団的鎖国主義である。基本的に閉鎖主義的な対応である。 通貨と通商の世界における自己防衛的囲い込みが、地球経済をズタズタに分断して行くのが最悪のシナリオで、其処に向かわない様に、債権大国の誠意ある大人の外交が問われる処だ。