著者は1935年生まれの後期高齢者直前、テレビ放送も無い時代、ラジオ寄席が娯楽番組として全盛を極めている時に青年期を過ごしたことで、落語の面白さを身に沁みて感じた経験も相俟って、過去を回想するのを佳いとする世代の様です。
案の定、40余のタイトルには自分の人生経験と関連する落語が入り混じって紹介されています。
そうは言っても、単なる愚痴と懐古趣味が蔓延していることは無く、新書版で気軽に読め、少しは世の中の情勢への対処法、楽しく人生を送る術を考えさせてくれる書籍です。
近頃は、テレビ放送でも「お笑いブーム」が再燃していますが、視覚的動きで笑いを誘う傾向が強く、読み言葉として文章に耐えられるものは少ない様に思われますが、その点、落語は文章となっても十分面白さを満喫できる資質を備えた伝統文化であることが分かります。
人生読本落語版-岩波新書1130(著者 矢野誠一)
著者は「はじめに」章で次の様に述懐していて、その時流に阿らない姿勢は、傾聴に値するものだと思われます。
古今亭志ん生がしばしば口にした「こんなこと学校じゃ教えない」の一言は、将に教育の妙諦で、あの時代の寄席は、私にとって最高の教室だった。決して世のため、人のためにはならないが、貧しいながら楽しく人生を送る術を学んで来た。
昨今の地に堕ちた世情を見せられると、テレビとも、パソコンとも、携帯とも無縁な不便でも心豊かな人生を、落語の世界から改めて学びなおしても良いのではあるまいか。
この本、電車内でも気軽に読めるのですが、本を読みながらもにやにやとせざるを得ず、変な人と思われる危険性がありますので、要注意でしょう!
火曜日, 5月 27, 2008
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